年間第11主日

イエスは十二人の弟子を呼び寄せ、汚れた霊に対する権能をお授けになった(マタイ10・1より)

 

新しい掟を弟子たちに授けるキリスト

石棺彫刻 

イタリア ミラノ 聖アンブロジオ大聖堂 4世紀

 

 多くの弟子たちに偉大な権威をもって臨むイエスの姿を描く、4世紀の石棺彫刻の外面の浮き彫り作品である。きょうの聖書朗読箇所とともに味わっていこう。ローマを中心とする初期キリスト美術は、カタコンベの壁画と並んで、石棺の大理石を刻まれた彫刻作品が多く、そこでは、イエスを羊飼いの姿で描くものが多いが、同時に弟子たちに新しい掟を与えるというモチーフの作品も多い。この石棺では、正面にイエスが少し高く、台座に立っている姿、その両脇、そして、側面にも弟子たちの姿が浮き彫りにされている。所蔵先のミラノの聖アンブロジオ教会は、4世紀のミラノの司教・聖アンブロシウスの名にちなむ大聖堂で、現在の大聖堂は、アンブロシウス自身の時代のものの礎石の上に、12世紀に再建されたものである。

 福音朗読箇所は、マタイ9章36節~10章8節。マタイ4章では、イエスの宣教の開始(12-17節)、最初の弟子たちの召命(18-22節)に続き、病人をいやす活動(23-25節)が述べられていた。続く5章~7章は、全編天の国(神の国)についてのイエスの教えのことばが続いた。8章、9章では、病の人をいやすさまざまな行い(8・1-17、28-34、9・1-8、18-35)が記される。これらを受けて要約する文章が、きょうの朗読箇所の直前の箇所9章35節に「イエスは町や村を残らず回って、会堂で教え、御国の福音を宣べ伝え、ありとあらゆる病気や患いをいやされた」と記されている。イエス自身、ことばによる教え(5-7章)を病や心身の不自由をいやすという行為によってあかししていることを、これらの文脈で述べている。

 そして、それらイエス自身の教えと行いを模範として、その業(わざ)を継続し、展開する使命が、今、とりわけ十二人の弟子に与えられる。それは、“天の国は近づいた”と宣べ伝えること、病人をいやすこと、死者を生き返らせること、重い皮膚病を患っている人を清くすること、悪霊を追い払うことであるが、死者を生き返らせることまで含まれており、イエスの権能と同じことを命じられていることになる。そのための力(権能)も与えられるということなのだろうが、そのことは、実際は人間としての力をはるかに超えるものであろう。そのような行為は神が導き、実現してくれるのでなければありえないことばかりである。ということは、使徒たちには、特別に神の導きとその意志が働きかけられるというこの約束である、と理解すべきであろう。イエスのことばは、してはならないこと、すべきことの命令であるが、それは、そもそもできない人間に無理を強いているのではなく、それを行う力そのものが選ばれた弟子たちに授けられるということである。そのことを「イエスは十二人の弟子を呼び寄せ、汚れた霊に対する権能をお与えになった」(マタイ10・1)と記されている通りである。

 この権能の授与は、究極的にはイエスの復活によって初めて現実化する。マタイ福音書の最終場面で、イエスが十一人の弟子たちに「近寄って来て言われた」(マタイ28・18)ことの意味合いは、10章1節のイエスが「弟子を呼び寄せ」て、言われたことと、復活したイエスが「近寄って来て」言ったことを比較対照してみると興味深い。「わたしは天と地の一切の権能を授かっている。だから、あなたがたは行って、すべての民をわたしの弟子としなさい。彼らに父と子と聖霊によって洗礼を授け、あなたがたに命じておいたことをすべて守るように教えなさい。わたしは世の終わりまで、いつもあなたがたとともにいる」(28・30)。命じたておいたことの内容の一つが10章5-7節だと考えることができる。実際、使徒言行録たちのことばによる教えとともに、病の人、体の不自由な人、汚れた霊にとりつかれた人へのいやしを実行していく(使徒言行録3・1-10; 5・12-16;8・7;9・32-34など)。

 復活したイエスの「すべての民をわたしの弟子としなさい」(マタイ28・19)のことばが、とても重要であるということは、きょうの第一朗読箇所との対比から浮き上がってくる。旧約の民が、主の声に聞き従い、その契約の守るなら、「あなたたちはすべての民の間にあって、わたしの宝……わたしにとって祭司の王国、聖なる国民となる」(出エジプト19・5-6a)と言われている。イエスのことばは、すべての民が「わたしの弟子」つまりキリストを信じる者、すなわち新しい契約の民となることを使徒たちに命じている。この命令は、現代のキリスト者である我々にまで届いている、ミサはつねにそのための派遣である。

 

オリエンス宗教研究所 https://www.oriens.or.jp/st/st_hyoshi/2023/st230618.html